タムリエルの空を泳ぐ

skyrimのRP物語や、フォロワーMODの公開などなど

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プロローグ

 ぼくのけしきは、はい色でぬりたくられていた。
 鉄格子の向こうではおーなーが、おとこのこをなぐりつけていた。
 肉をたたくにぶい音と、くりかえされる ごめんなさい のなき声。
 どうせ客にだまされて、かけおち、とやらをしようとでもしたのだろう。
 ぼくは、『しごと』をしたあとなので、静かにねさせてほしい、とおもった。
 なぐりながら、おーなーがツバを散らす。
 逃げ切れるわけがないだろう、と。 そのとおりだ。
 金も力も無しに逆らおうとするな、と。 そのとおりだ。
 こんな世界で夢など見るな、と。 そのとお--------


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 「…………ん」
 言うまでも無く、目覚めは最悪だった。寝すぎたためか若干の頭痛を伴って、夢の中とは打って変わって豪華な天井がぐるぐると回る。
 目頭を抑えながら、記憶の混濁を落ち着かせようと試みた。アレは過去だ。神の救いか悪戯か、あの牢獄から抜け出すことができた今、海馬の底を掘り返してまで思い出す価値も無い。そう自分に言い聞かせて体を起こし、部屋を見渡す。
 僕にはあまりに不釣り合いな、絢爛豪華……という言葉がぴったりな寝室だ。羽毛の入った布団、鈍色に光る燭台。壁にかかっている上質な衣類。それらをぼくに与えてくれた人物は、今日はどこかに出かけているらしい。その証拠に、彼がいつも着けている靴や衣服が見当たらなかった。
 多少寝癖で跳ねている髪を手で直しながら部屋を出て行く。途中、使用人たちが挨拶をしてくるのに答えながら中庭へと向かうべく屋敷の廊下を歩いた。程なくして屋敷の扉を開けると、風に運ばれてきたジャズベイ・ブドウの香りが鼻孔をくすぐる。庭に植えてあるものは品種改良される前のもので、香りが強いらしい。シロディールの中で北の方に位置するこの屋敷は、春でも涼しい風が凪いでいる。
 ふと、まつげを撫でる柔らかい光につられて空を見上げた。
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 数奇なものだ。灰色に覆われていたぼくの世界は、今やこんなにも色に溢れていた。



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 中庭の一角にある温室で、毎日の日課である錬金術の練習に勤しむ。
 錬金術は楽しい。組み合わせる素材によって出来る薬は色を変え、性質を変え。その変化を記録に取っていけば更に知識が広がっていき、新たに疑問を生み出す。そうして知識を蓄えていくのが、たまらなく好きだ。
 しかし物悲しいのは、ぼくの将来に、それらの知識がなんら関わってこないということだ。
 ぼくを救い出してくれた……養父は商売で身を立てここまでの財を得てきた富豪で、彼はゆくゆくはぼくに後を継がせたいのだという。
 ぼくにとって彼への恩は計り知れないし、彼に報いたいという気持ちも十二分にあった。
 だけど……。
 -こんな世界で夢など見るな-
 まだ夢の残滓がこびりついているようで、不快な言葉が脳裏をよぎる。
 そんなこと、まっぴらごめんだ。頭を振って幻聴を追い払っていると後ろから声を掛けられた。
 「今日も熱心ですねぇ、ぼっちゃまぁ」
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 妙に間延びした喋り方をする、屋敷お抱えの錬金術師が立っていた。
 「それくらい本業にも打ち込んでくださるといいんですけどねぇ」
 ぼくに簡単な錬金術の基礎を教えてくれた人だが、商売の勉強をそっちのけで錬金術にのめり込み始めてからはあまり教えてくれなくなった。不満たらたらといった様子だ。
 「……そんなことぼくの勝手でしょう」
 「でも旦那様も心配しておられますよぉ。このまま跡を継いでくれないんじゃないかってぇ」
 「…………」
 養父のことを出されると黙り込むしか無かった。この錬金術師はそれが分かって言っているのだろう。それがなおさらぼくの腹の底を燻らせた。
 「放っておいてください」
 つっけんどんと突っぱねてみるが、所詮ワガママを言っている子供だ。なんだか悔しくなって、わざと石畳に靴底を強くぶつけるようにして、屋敷の中に帰ってしまった。



 部屋に戻っても、将来のことについての不安がぐるぐると回っていてなんだか煮え切らない。
 気分を落ち着かせるために書棚から本を一冊適当に掴んで読んでみた。
 「スカイリムの植物ガイドブック……」
 シロディールの北、スカイリムの植物に関する本だった。スカイリムはぼくと同じノルドが多く住む雪の大地だ。
 出血の王冠、ベラドンナ、ツンドラの綿……。まだ見たことが無い。錬金素材に心が躍る。いつかスカイリムの雪が残る山の麓を歩いて、花や虫を集めてみたい。それを組み合わせればどんな薬が出来上がるんだろう……。いつか試せる日が来るだろうか。
 ………いつか? そんな時は来ないだろう。このままでは。商人になればそんな旅をしている暇はない。行商ならまだしも、商社を構えているウチのようなところでは。今しかない……。今しかできない……。
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  気がつくとクローゼットから丈夫で動きやすそうな服を見繕っていた。護身用のナイフと、腰につけるバック、そして地図。
  そこまで支度して、もう一度考え込む。ほんとにいいのだろうか。養父を裏切ることになるだろうか。いいや、数年だ。数年旅に出て、戻ってから養父の跡を継ごう。商人には広い視野も必要だろう。それを補ってくるのだ。
 そんなのはいいわけだ。本当のところは、この屋敷から出て広い世界を見てみたい。屋敷の外には今まで以上に色に満ちているはずだ。鮮やかで艶やかな世界につられて、ぼくは家出を決意したのであった。

 
 「ごめんなさい、お養父さん」そんな書き出しで始まる手紙を、お養父さんの書斎に忍ばせたあと、見張りの交代の時間を狙って屋敷の外に飛び出した。肌を撫でる冷気にノルドの血が喜んでいるようだ。
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 「これが最初で最後の旅……かぁ」
 今日はじめて、ぼくは自分の足で未来へ踏み出した。
 雲間を漂う月は、相も変わらずぼくを見下ろしていた。軽やかにその月を追いかけて歩を進める。やがて行き着く先が、ささやかな幸せであることを願いながら。
 --これはぼくが僕になるまでの物語だ--
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